はじめに

 

料金問題はどの業種であれ、最需要課題です。

ますます複雑化する構造・機能を有する車両事故損傷の内容を正確に把握するには見積り体系の確立が不可欠です。

 

昭和40年代は、業者の乱立による料金の値引き競争の時代でした。

昭和43年に運輸省から「自動車整備料金を適正化」するよう行政指導(自整第92-2)がありました。

昭和48年には、損保が、将来の料金問題の円渦化をめざして自研センターを設立、料金問題に積極的に取組を開始しました。

昭和54年に損保側と日車協とで、料金の共通資料(指数方式)策定についての共同研究会を発足、現在まで実務者レベルでの研究が重ねられています。

昭和56年には運輸技術審議会から「自動車の構造の進歩、変化に業界の技術が十分に対応出来ず、また、修理料金の内訳などについてユーザーに理解される説明が行われていない」と指摘されました。

同年、自研センターの実測データをもとに、料金資料として指数テーブルが策定され、発行されました。

翌昭和57年には、日車協が、指数テーブルを採用することを機関決定、ここに、請求側と支払い側で、共通のモノサシ=指数テーブルを使用することにより、料金を適正化する「指数方式時代」がスタートしました。

同年、車体整備業界では、近代化5ケ年計画をスタート。「整備受注の際の料金見積りの励行および料金請求の明確化に努めるものとする」ことが目標の一つに上げられ、指数方式の料金体制の普及拡大がはかられました。

平成6年に、自研センター内に各カーメーカーとの共同研究棟が完成、指数テーブル策定にカーメーカーが本格的に参画しました。その結果、新車発表から指数テーブル発行までのサイクルが大幅にスピードアップしたほか、補修塗装指数、外板修正指数、骨格修正指数なども大幅に改訂され、実用化に大きく近付きました。

 

近年、見積りコンピュータの普及が進み、これに指数テーブルが組み込まれたことで、指数方式の普及は一気に拡大しました。コンピュータ見積りは、見積書が容易にプリントアウトされるため、見積書が書けたと勘違いしているフロントマンが増えてきた弊害も見られるようになりました。データベースや見積りのしくみがパソコンのハードデスクにブラックボックス化して内包されているため見積りのしくみや見積りノウハウのマスターが遅れていると、ベテランのフロントマンから指摘されています。

若手アジャスターについても、実情は全く同じです。

「はじめから、予定金額が頭にあって、見積書の内容が軽視される傾向がある。」(都内のベテランフロントマンの話)と、双方が見積り合わせの形態はとりながら、実態は指数化以前の「鈑金塗装一式いくら」式の総額協定に近いものに堕ちてしまっていると嘆いています。

 

筆者は、過去30年にわたり車体整備業界専門のジャーナリストとして見積り(料金)問題に取組んできました。また、昭和57年以降、20年間にわたり【実践見積り講座】(林孝俊講師)を全国各地で開催、延べ5,000人のフロントマンに対し見積りノウハウを伝授してきました。

フロントマンが自主学習する場合のテキスト、あるいは、日常の見積り業務の中で疑問点を解消するための手引書が要請されています。そこで、これまでの各種講習や取材を通じて蓄積してきた見積りノウハウを基に「最新事故車修理見積り事典」として集大成して平成2年に発行したところ多くの業界人に歓迎され、業界の発展と専門工場の近代化に多少、役立ったと自負しています。

 

愛知県のある二代目経営者から「先日なくなった父の部屋で見積り事典を見つけました。いつも汚れたツナギを着て、一生懸命働いていた父でしたが、本など読んでいた姿は一度も目にしたことがありませんでした。ところが、この事典には赤線や書き込みが随所に見られ、手垢で黒ずんでいました。隠れたところで、こんなに努力していたのかと、改めて、父の偉大さを思い知りました。」との電話があり、自分も父に習って見積りの勉強をしたいので、改訂版を早く出してほしいと要請されました。

このほか、多くの方々から、料金資料や料金をとりまく環境が大きく変わったのに改訂版はいつ出るのかとか、2代目に見積りを教えたいので改訂版を出してほしいとの要請が数多く寄せられました。

改訂版を出すと、何度もアナウンスしたものの、筆者に若い時代の馬力がなく、関係資料のみ量を増してきました。今回、なんとか発行にこぎつけられたのは、重い病におかされた妻が生きている内になんとか出来上がった本を見せたいとの強い思いがあったからだと思います。

 

前書の編集では、損保側の情報公開がほとんどなく、手探りの状態での執筆だったため、推測に頼らざるをえなかった項目も多々あり、記述ミスもいくつか指摘されました。今回は、指数テーブルの内容がほぼ固まったこともあり、損保サイドも、質問事項には原則的に全て答えるかたちでの情報公開がありました。

このため、得られた資料をいかに分かり易く編集するかに心をくだきました。忙しい中、筆者の度重なる質問事項にも真摯に回答いただいた自研センターのお客様相談室担当者各位や、旧知のアジャスター各位に改めて感謝の意を表します。また、北多摩自動車の林社長、日新自動車鈑金の曽根工場長には、何度もこころよく貴重な時間を割いていただきました。インターネットの筆者の頁にも、見積りに関する質疑が数多く寄せられています。今回の改訂版編集に際しては、これら現場から貴重な情報も極力収録しました。

 

指数テーブルは「共通のモノサシ」であり、料金問題のルールブック、法律書ともいえるものです。料金については、損保と修理業界の上にユーザーがいることを忘れてはなりません。ユーザーに対し、アジャスターは検事の役割があり、フロントマンは弁護士の役割があります。指数テーブル(法律)の適正な運用により、適正な料金を決定し、支払うことが、検事の立場のアジャスターに課せられた責務です。一方、指数テーブル(法律)の適正な運用により、正しい損傷診断を行い、ユーザーに完璧な修理を提供するのがフロントマンの責務です。

立場とアプローチは対峙する両者だが、ユーザーの利益を第1に考え、プロどうしの理論闘争をする中で、適切な事故車の修理が完成するよう互いに研鑽し努力する必要があります。どちらか一方だけが、優位に立ったり、実力差があっては、ユーザーの利益から掛け離れたものになります。

自研センター の初代社長・島田啓助氏が、同社設立初期の記者会見で「損保業界と修理業界の言葉を互いに理解することから始まった。」と損保と修理業界の混合チーム体制でスタートした同社運営の苦労を述懐したが、指数テーブルの見方についても全く同じことがいえます。資料を作った損保側では、指数テーブルを素直に読めばわかる筈だと思っても修理業界側の言語に翻訳しないとわからないか誤解する場合があります。

指数テーブルは事故車修理料金体系としては、世界に例のないほど綿密かつ、合理的に出来ているものの、損保のものの考えかたが理解できない異業種の者にとっては分からない点が多々あります。(損保側で別に秘密にしているわけではないのだが)当書は、このように、両業界の意識の乖離を縮める翻訳辞典としての役割も持たせたつもりです。なお、車体整備工場の受注環境が厳しい現状を鑑み、フロントマンの役割を単なる見積りマンから営業の出来るフロントマンに変身させるノウハウも盛り込みました。

 

筆者の年齢からすると、次の改訂版の発行は体力的にも難しいので、当書の内容を全てCDに収録し、付録として添付しました。このCDはインターネットとも連動しており今後の内容改訂は、インターネットを通じて(当書購入者に)無料公開していくこととしました。

当書がフロントマンはもとより、アジャスターにとっても、修理業界の考え方を理解していただくための何らかの参考になれば幸いです。

なお、当書執筆、編集に際して、北多摩自動車の林孝俊氏を始め車体整備工場の多くのフロントマンに監修をいただいた他、カーメーカー、カーデーラー、機会工具メーカー、塗料メーカー、自研センター、日本アウダテックス等々、多くの方々から資料の提供をいただきました。

最後に筆者が事故車見積り研究をはじめたキッカケとなり、指数方式定着にあたり修理業界側の立場で尽力し、志半ばで逝去した故中川雅孔氏の霊前に当書をささげます。

 

平成15年7月10日  井上勝彦

 

 

 

 

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